世の中には,朽木が好きでたまらないという人が案外いるもので,昆虫や蝸牛のマニアの中には朽木フェチが少なからずいて,森の中で朽木を見つけると,涎を垂らしながら近づいていって,撫で回したり,ひっくり返したりするわけですね。
生物のフィールド研究者が生涯にひっくり返す朽木と石の数は莫大なもので,少なく見積もって年に100~200個ひっくり返すとしても,生涯で5000~1万個の朽木と石をひっくり返すことになります。1個の朽木や石の下に平均10個の目に見える生物が存在したとして,生涯では5万~10万個の「敢えて隠れている生物」を,意図的・筋肉的な努力によって目撃する計算になります。さらに,平均10個体のうち最低2個体は,コウガイビル・ナメクジ・ゲジ・毛虫・変なベントスなどの気持ち悪い生物ですから,生涯で1万~2万回の気持ち悪い体験をすることになります。
こうしたことから,生物研究者は一般に,指先が頑丈で,腕筋肉が発達し,醜いものに寛容であるという共有派生形質を獲得しています。生物研究者の配偶者の外部形態(容姿)の平均値が,平均よりもかなり低いということは統計上もよく知られている事実ですが,その原因は気持ち悪い体験の日常化によるものであることは疑う余地がありません。
こうして生物研究者は,地上最強の博愛主義者に進化するのです。
「うんと勉強して,日本国憲法を書き直しておくれ」という親心のこもった机の上を,木屑やフナクイムシだらけにして,なんだかもう収拾がつかないんですけど,というのが一般的な人生。
人類が,道草や無駄が好きだという習性は,優れた美徳と考えるべきか。
彫刻刀を使って慎重に掘り出した。海の底にも仏のあらむ。
「良い朽木は二度起こされる」:中国の格言で,良い朽木には良い虫が繰り返し集まるので,何度でも良いことが起きるということ。人間が歳をとって朽木のようになっても,世間がその人の才覚を必要することを意味する。
対義語:「柳の下のドジョウ」
類義語:「良い石は二度起こされる」(海洋生物学)
投稿者: 由


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