3月3日の雛祭りに,女子の健康などを願って,蛤を食べる習慣が日本にはある.蛤は「貝覆い」や「貝合せ」などの中世以来の遊戯に見られるように,同じ個体でないと左右の殻がぴったりと合わないことから,「夫婦和合」の象徴となり,そこから女子の健康や貞節を願うものとなった.
左右の殻が合いにくいというのは,殻の「歯」の構造がハマグリでは比較的複雑であるからである.もちろん貝屋的には,クルミガイやアカガイ類の方が「もっと,合いにくいぞ」という意見もないわけではない.しかし,なにしろハマグリは殻の色・模様もきれいで,干潟にたくさんいて,昔の日本人にはとても身近な存在であったわけで,そこからこうした遊戯や習慣が生まれたと言える.
日本を代表する「干潟の王様・女王」であるハマグリ(Meretrix lusoria)は,干潟環境の悪化によって,今や絶滅危惧種になっている.
雛祭りに蛤を食べる習慣は,忘れられつつある一方で,大手スーパーやデパートなどで,雛祭り蛤商戦が展開されていて,雛祭りシーズンには大量のハマグリが流通している.最高値や最安値が見られるのも,この時期だろう.そこには海外の海洋資源の濫用など様々な問題があるのだが,これはまた流通産業が「失われつつある日本の伝統・慣習」を維持している例でもある.
「日韓共同干潟調査団ハマグリプロジェクトチーム」「アジアの浅瀬と干潟を守る会」は2005年から,雛祭りシーズンのハマグリ類流通の店頭調査を行なっている.今年も全国のたくさんの人に御協力いただいた.深く感謝致します.
国産のハマグリ(Meretrix lusoria)とチョウセンハマグリ(Meretrix lamarckii)が,日本の海岸環境の悪化によって激減しているため,現在国内で流通しているハマグリ類の90%以上は中国・北朝鮮産のシナハマグリ(Meretrix petechialis)である.今年の雛祭り調査でも,それは明らかだった.
日本の女子の健康を祝うための食事を,私たちは自分たちの海でまかなうことができない.それほど,海を破壊しつくしてきたのだ.
今年の雛祭りに作って食べた蛤の潮汁.1個580円の大きなチョウセンハマグリと,格安のシナハマグリ.一杯700円相当.チョウセンハマグリの資源量減少もとても深刻で,この1個の価格の高さは,今では適正であると思う.これが現代の日本人の蛤鑑(はまぐりかがみ).
投稿者: 由

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