2022年6月3日金曜日

「WHAT IS UMIGOMATSUBO?」2007/4/7  

今週はとにかく,カキ礁と猫実川の特集.以下は,数年前に,三番瀬再生計画素案についての提出した意見の一部.


*ウミゴマツボの生物学的重要性について

 ウミゴマツボ(=エドガワミズゴマツボ) Stenothyra edogawaensis (Yokoyama, 1927)は,市川市江戸川河畔の「市川貝層(Ichikawa shell bed)」から発見され記載された種で,市川市江戸川河畔は本種の模式産地である.Fukuda(1994)は江戸川放水路の河口棲貝類について研究し,エドガワミズゴマツボを江戸川から再発見し,「エドガワミズゴマツボは今回の調査地周辺が模式産地と考えられる種で,最初に記載されたのは戦前(Yokoyama, 1927)であるが,現在なお多数の生息が見られるのは注目すべきことである」と述べている.Fukuda(1994)の調査以後現在まで,江戸川河口ではウミゴマツボ(=エドガワミズゴマツボ)の生息が確認され続けている.

 模式標本(生物種の記載に用いられた標本)の重要性が極めて高いことは言うまでもないが,ある種の模式産地(模式標本の得られた産地)の個体群は,模式標本に準じるような一定の価値・重要性を持っていると考えられる.したがって,江戸川河口域のウミゴマツボの個体群は,生物学的に重要な個体群であると位置付けられる.猫実川河口域は江戸川河口域に近接し,両者のウミゴマツボの個体群は(歴史的な意味も含め)遺伝的交流も予想されることから,模式産地近接地の個体群として重要性が高いと指摘される.

 猫実川河口域のウミゴマツボの個体群については,以上のような重要性が充分に認識された上で,その保全について慎重な対応が望まれる.

 ウミゴマツボは江戸川河口が模式産地であると言う意味合いにおいても,東京湾の泥干潟の代表的な種と言う意味合いにおいても,三番瀬再生計画にとって象徴的な種であると位置付けられてよいのではないだろうか.


*ウミゴマツボを含む猫実川河口域・泥干潟の保全の重要性

 猫実川河口域には,ウミゴマツボ・カワグチツボ・ヒメシラトリなどの泥干潟に特有の貝類が生息している.そのような事実を踏まえ,猫実川河口域の泥干潟生態系の重要性と保全の必要性が「三番瀬再生計画素案」の中に盛り込まれていることは高く評価される.

 しかし,「素案」の中で猫実川河口域として定義され泥干潟として保全される区域は,非常に狭い範囲であると見受けられる.さらに,塩浜2丁目で計画されている護岸改修と砂の投入は,猫実川河口域の泥干潟生態系を一変させるものだと考えられる.

 第一義的に重要なことは,猫実川河口域の泥干潟生態系の広がりと連続性が,正確に認識され,その上で保全計画が策定される必要があると言うことである.「平成14年度 三番瀬海生生物現況調査(底生生物及び海域環境) 報告書」によれば,ウミゴマツボは猫実川河口の市川側と日の出側に二つの大きな個体群のまとまりがあり,市川側では塩浜2丁目周辺に集中的に分布している(秋季と冬季).塩浜2丁目周辺は,ウミゴマツボの明らかな分布・生息域の中心の一つとなっているのである.ヒメシラトリでも,塩浜2丁目周辺は出現頻度の高い海域となっている.

 このように塩浜2丁目周辺は,猫実川河口域の泥干潟の種にとって,非常に重要な生息ゾーンであることが明らかである.カワグチツボなど他の多くの生物の生息分布状況を重ね合わせると,塩浜2丁目周辺~猫実川河口~日の出周辺が泥干潟として一つのまとまりを示していることは,より明らかになる.塩浜2丁目で計画されている護岸改修と砂の投入による「エコゾーン」の創出は,この泥干潟の広がり・連続性を無視したものであり,「素案」が持つ生態系そのものへの解釈の正当性に対して疑念を生じさせるものである.

 特に強調しておきたいのは,「平成14年度 三番瀬海生生物現況調査(底生生物及び海域環境) 報告書」において,この泥干潟生態系の広がり・連続性,及び塩浜2丁目周辺がウミゴマツボなどの生息地として重要であることが,明らかにデータとして読み取れるのに,「素案」においては,それらの点が全く反映されずに,周辺の「再生計画」が作られている点である.莫大な予算を使った科学的データが反映されていないことは大きな問題である.

 猫実川河口域・塩浜2丁目周辺で計画されている「再生計画」は以上のように,この地域の泥干潟の広がり・連続性を無視したものであると指摘される他,護岸による泥干潟の消失と,砂の投入による泥干潟の砂質化が明らかに懸念される.「素案」が泥干潟の価値を高く評価していることと,実際の「再生計画」は大きく矛盾しており,再検討を要望するものである.

塩浜2丁目で計画されている護岸改修と砂の投入による「エコゾーン」の創出は,「砂浜・砂質干潟=きれいな良い干潟」と言うような,旧来の干潟イメージに支配されたものであり,それは科学的・生態学的な意味での干潟,真の干潟とは異なるものではないだろうか.

 特にこの点において,「三番瀬再生計画素案」の高く素晴らしい理想を支える「生態学的な思想」を再点検すべきであると感じられる.理想を支える思想が間違っていれば,我々はまたも「誤まった東京湾の歴史」へ踏み出す恐れがあるからである.


引用文献

Fukuda, H. 1994: Estuarine mollusks of the Edogawa Drain, central Honshu, Japan. 東京都高尾自然科学博物館研究報告, 16: 1-14.

千葉県・(株)パスコ, 2003: 平成14年度 三番瀬海生生物現況調査(底生生物及び海域環境)報告書. 千葉県.

投稿者: 由

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