2022年6月3日金曜日

「武田節」2007/4/6

江戸川・猫実川河口域の泥質化やカキ礁の発達は,近年の水質の汚染や富栄養化で進んだものであり,それは「本来的」なものではないという議論もあるかもしれない.しかし,それが東京湾の湾奥という地勢条件で維持されているのは,間違いないように思われる.少なくとも,泥干潟の種であるエドガワミズゴマツボは,この河口域に「市川貝層」の時代から生き残っている.問題は「いついつが本来の生態系」ということではなくて,東京湾の中に泥干潟・カキ礁生態系があることによって,全体の生物多様性が支持されるということである.その中において,「縄文時代の生きた自然」の価値がある.しかも,その生きた自然は,水質浄化や生物多様性を支持しているではないか!!

ある人たちは,猫実川河口のカキ礁が,水質の悪化によって,ごく近年,発達したものであり,「本来の自然」ではないと主張する.猫実川河口域のカキ礁が,いつからどのように発達したかは,厳密に科学的に検討されなければならない.しかし一体,いつが本来の自然で,いつがそうではないのか? 昭和初期なのか,縄文時代なのか,白亜紀なのか? こうした議論は,実に馬鹿げている.「いつに帰るか」ではなくて,今,豊かな海と社会を,どのように作るかではないのか.そのためには,今あるものを壊さない・何も手を加えないという選択肢もあるのだ.カキ礁が水質汚染(富栄養化)によって発達したとしても,だからこそ今,水質浄化を行っているのではないのか? 物理的・生物学的な作用・反作用の議論の中に,この議論を捉えることもできるだろう.

ある種の漁民・市民がいつも主張するような「目の前の利益」や「アサリ漁場」という視点だけで,東京湾を見るならば,生物多様性の本質と「真の意味での東京湾の再生」を見誤るのは疑いない.

生物多様性の思想の中には「人類の利益」が根本的な要素として含まれている.だから,東京湾の漁場再生・人間の利益のためには,生物多様性の本質を充分に理解することが必要である.生物多様性の思想は,人類の生存権と同様に,あらゆる生物の生存権を保証するものである.「生物多様性」とは,人類史に挿入された,最も新しく最も革命的な「全生物の民主主義の宣言」である.

それは実は,少しも新しい話ではない.それは「汝の隣人を愛せよ」という2000年来の思想と同じものであり,さらに古い時代の「人間の命と個々の生物の命は等価である」というネイティブ・アメリカンや多くの先住民の考えと同じものである.

猫実川河口は,あなたたちが勝手にいじくり回していいものではない.そこは,先住民である,エドガワミズゴマツボなどの土地であり居住地なのだ.生物多様性条約と,その国際戦略が「先住民の叡智と権利」を,特別に尊重し保証しようとしているのは,先住民が人間以外の生物の声を聞き,その本質を見つめ,人間と全生物の共生を目指した人々であるということを謙虚に認めているからである.このような思想まで生物多様性条約という国際条約には含まれている.日本人たちは,その意味をいつ理解するのだろうか?

つまり,豊かな漁場を作り,豊かな食生活と社会を作るには,あらゆる生物の声をちゃんと聞くことが必要なのだ.敵を増やすのではなくて,あらゆるものが共生していることを考えて欲しい.

「情けは味方,仇は敵」

これもずいぶん古い歌だ.日本人はいつ,その道を見失ったのか?


投稿者: 由

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