那覇行きの飛行機の中では,貧民たちが車座になってチンチロリンを開帳し始めた.上野駅や有楽町のガード下でよく見かけた顔も混じっている.
さすがにこの非常識な振る舞いには,スチュワーデスが飛んで来て「機内では,サイコロが丼から飛び出す恐れがありますので,御遠慮下さい」と氷のような笑顔でたしなめた.
ちょうど私の正面に座っている帽子の男に胴が回ってきた時で,「まあ,いいじゃないか,山村君」と男は落ち着いて言った.帽子の男は副操縦士の山岡だった.「そーだ,そーだ,女は黙ってろ」と,ネクタイを頭に巻いた機長の山本が言った.山本は,今正に100ドルのズクを床に叩きつけるところだった.その横では,あぐらを組んだチーフパーサーの山野が「ちきしょう,今度こそ,あたいの弁天様がっ!」と爪を噛みながら,目を血走らせている.
私(山下)にサイコロが回ってきた.私はくわえていた煙草の火を右の手の平でゆっくりと揉み消した.右手に握っていたサイコロの1の目以外をすべて焼き焦がして,丼にぽとんとサイコロを落とした.
投稿者: 由
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