前回までのあらすじ:貝屋の聖地・和歌山で,ヘナタリに取り囲まれたり,猫に吠えられたり,城壁を走ったりしながら辛い旅は続いた.人生とは,ただ一度きりの肉抜きなのか? 肉が残ったら,どうすればいいのか? 熊楠への未練を残しながら,ついに田辺を去る日が来た.変な間取りの旅館の部屋で,私は机の上の雑貝をトランクに詰め込むのだった.
「くろしお」という貝臭い特急に乗って,和歌山駅に着いた私は,大急ぎで和歌山ラーメンの店を探した.帰ってから「とても,おいしかった」と家族に自慢するためである.無精して駅ビルの中の店で食べたので,無論たいしておいしくなかった.志賀直哉のように打ちひしがれた私は,一路・関西空港へ向った.初めての関空でなめられないように「おいでやっせー」とか意味不明の偽関西弁をつぶやいて,タコ焼きを食べながら飛行機を待つ.「蛸の肉抜き」という快心の諺を思いつきながらも,心が寒い.
那覇行きの夜行飛行機に乗り込むと,行商人や馬喰(ばくろう)たちでごったがえしており,乗車率は200%近い.座席が無いので多くの人たちが吊革につかまったり,座り込んだりしている.「いちょうがいが,すんだもっただべ」「まんづ,くちぐろきぬたら,でーじだっせ」「めだからよ~」「おいでやす,美ら島へ」とお国訛りが飛び交う中で,私も仕方なくプロペラの上に腰を下ろした.
「快適な空の旅をお楽しみ下さい」
津軽海峡冬景色の大合唱と共に,ボーイング727は沖縄へ向けて飛び立った.
投稿者: 由
前ブログでのコメント
返信削除投稿者:山下由2007/12/19 7:00
蛸は貝を集めるの好きですね.イヨスダレはいい貝です.
投稿者:泡瀬のコアラ2007/12/13 13:45
「蛸の肉抜き」で思い出しました。スーパーで大分産のイイダコを買ったらなんと「殻付き」の大当たり。と言う話を以前ブログに書いたので、よかったらご覧ください。以下のサイトです。
http://haiyue.cocolog-nifty.com/blog/2007/11/post_8268.html
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