さて,旅客機は,乗務員たちも手放しで絶賛したジュゴンの天才的な運転で,首里城の広場に無事着陸しました.観光客たちがぞろぞろと降りて,琉球国の空気を吸い込み,最後に酔っ払った機長がタラップから放り出されました.
飛行機を運転していたジュゴンは,琉球王朝最後の三司官の一人・與那原親方良傑の末裔でありましたが,その案内で上御座に通された私たちはぶくぶく茶でもてなされて,ひとしきり首里城の中を散策しました.
龍潭にさしかかった時です.ジュゴンは直立したまま深々とおじぎをして,
「さて,皆さん,楽しい旅でしたが,私はそろそろ竜宮の国に戻らねばなりません」
と言いました.
「私たちの海の国では,たくさんの良くないことが起きていて,なぐうぇーかた(名護親方)もとても心配しています.私は帰って,いろいろと相談しなければなりません」
ジュゴンはそう言うと,龍潭にポチャンと入って,気持ち良さそうに胸鰭で顔を洗いました.
「それではね」
尻尾を丁寧に振りながら,ジュゴンは龍潭の水面をくるくると回りました.
「ルカジサダミティドゥ フニンハシラシュル スンポハジラスナ チムヌタンナ(櫓舵定みてど 船も走らしゅる 寸法走らすな 肝の手綱)」
静かな声で歌いながら,深緑の水底にゆっくりとジュゴンの影が消えてゆきます.
この歌は,名護親方・程順則(ていじゅんそく)の有名な言葉で,「船は櫓舵の方向をちゃんと定めてから走らせるものだ.人も心の手綱をしっかりと持って,ちゃんと道を見極めて行かねばいけないよ」というものです.
ジュゴンの姿が見えなくなると,私たちは思い出したように空を見上げ,デイゴの葉が風に揺れるのを,いつまでもいつまでも眺めました.


0 件のコメント:
コメントを投稿