縄文時代の温暖・海進期には,日本各地で海水面が上昇し「溺れ谷」と呼ばれる湾に泥干潟が発達した.日本全国に多くの泥干潟があり,無数のカキ礁が存在していたと考えられ,化石記録も多く残っている.その後の,気温の低下・海退によって,これらの泥干潟・カキ礁生態系は急速に減少していく.閉鎖度の高い内湾・汽水域・河口・河口干潟,すなわち現在も泥干潟が残る場所に,「泥干潟・カキ礁生態系」が現存する.こうして考えると,泥干潟・カキ礁生態系は「縄文時代の生き残り」である貴重な生態系であると言えないだろうか.
三番瀬の江戸川・猫実川河口の泥干潟生態系は,今や東京湾に残された「泥干潟の最後の砦」「泥干潟の生物種の遺伝子の最後の砦」である.カワグチツボ・エドガワミズゴマツボ・ウネナシトマヤガイ・ハナグモリなどの種は,江戸川・猫実川河口域に東京湾唯一もしくは最大の個体群が存在する.東京湾にも泥干潟環境が多くあったことは,貝類の化石記録が充分に物語っている.それは江戸川・猫実川河口の泥干潟生態系が「縄文時代の生き残り」であることを,明晰に示唆している.
博物館に行くと「縄文時代の自然・暮らし」という展示・ジオラマを目にすることがある.そのようなジオラマには数百万円単位の税金が使われているのが普通である.しかし我々は三番瀬で,「縄文時代の自然」である泥干潟・カキ礁生態系を,ただで見ることができるのである.そのような「縄文時代の生きた自然」を破壊しようとすることは,環境教育上も極めて認め難いと言えないだろうか.
猫実川河口.大都市の中にある「縄文時代の生きた自然」.カキ礁周辺の泥干潟には,カワグチツボ・エドガワミズゴマツボが,多数生息する.
投稿者: 由

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