2022年7月8日金曜日

「Terebra japonica」2010/2/7


さて,そんなわけで,相撲のことを忘れようと,相模湾に出てみると,貝がたくさん落ちている。

それで,私の大好物であるタケノコガイの仲間のヒメトクサがたくさん打ち上がっていて,「うひょひょひょ」と狂ったように拾う。新鮮な殻がたくさんあったが,1個だけ生きたのも混じっていて,大変にうれしい。

この類は茹でても完璧に肉が抜けるということはまずないんだけど,途中まででも抜ければと肉抜きを試みる。写真のように軟体が出てきたところで,足のあたりをピンセットでつまんで,鍋に沸かしたお湯につけて肉抜きしようとしたら,湯気が「熱ちゃちゃちゃちゃ」で,ポチャンと落として,あっさり失敗。

それで,殻ごとエタノールに漬ける時の虚しさは,なんとも言い難い。この虚しさは,肉とは別に貝殻を保存することに重大な意味というか殆ど人生を賭けている貝屋に固有の感情である。こうした感情が理解できないようでは貝屋としては三流で,「貝類研究者」と呼ばれるのがおちだ。貝類学の世界では,研究者と呼ばれているうちは全く駄目で,貝屋と侮蔑を込めて呼ばれて初めて一人前なのだ。


それにしても,タケノコはいい。私はどんなガスガスの殻でも,こればっかりは喜んで拾う。貝屋をまた「磯乞食(いそこじき)」と,いみじくも呼んだ人がいて,これも有名な言葉だ。汚いなりで,袋をぶら下げて浜辺を拾い物して歩くのだから,これは立派な乞食である。考えてみると,拾い物をして,殆ど人生最大の喜びを噛みしめているのだから,明らかな乞食体質で,勤労意欲も失せようというものだ。ただの貝屋なのだけど,それでは世間で乞食扱いされるので,しょうがないのでまあ研究とかもやる。頑張ってうまくいくと就職もあるが,悪くすると名刺に「ホームレス」と印刷しなければならない。住所は「波打ち際」。生意気に携帯電話を使ってやがると思ったら,サソリガイを耳にあてて,独り言を喋ってるだけ。世の中は厳しく,笑いに満ちている。


タケノコガイ類は肉食で,多毛類やホシムシを食べている。海の汚染や底質の変化があると,餌動物が減少したり,餌動物相が変化することで,生活できなくなるようだ。相模湾には,シチクガイ(紫竹介),シラタケ(白竹),コベニタケ(小紅竹),コゲチャタケ(焦げ茶竹),ヒロオビトクサ(広帯木賊)などの多くのタケノコガイ類が豊富に生息していたが,殆どの種が絶滅した。海洋環境の変化を,すごく敏感に反映するグループだと思う.

相模湾で,ヒメトクサ(姫木賊)がかなり復活してきたようで,とてもうれしい。


筍介をこよなく愛した大山桂先生の名エッセイはこちら.

http://www.aquarium.co.jp/shell/essay/takenoko.html


投稿者: 由

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