2022年5月29日日曜日

「志多陀美考」2006/8/26 

志多陀美(細螺:しただみ)は小さい巻貝のことであるが,これを血生臭い戦闘に結びつけたのは後にも先にも日本初代の天皇である神武天皇ただ一人ではなかろうか.殆ど日本最古に分類される歌の中に貝が登場し,敵を滅ぼす容態として表現されていることに驚かされる.「撃ちてし止まむ」は軍国主義時代のキャッチフレーズになったが,「貝のように撃ちてし止まむ」とは,神武以降(つまり有史以降の日本において)誰にも共感が得られず繰り返されなかった比喩である.神武天皇がいかにマイナーな感性の持ち主で,貝をつぶさに観察した人物かということが古事記に示されている.すなわち,神武天皇こそ日本最古の貝屋であり,初代天皇が貝屋であったという驚くべき史実を,日本国臣民は厳粛に受け止めなければならない.また,貝を愛好するということは,初代天皇以来の伝統と格式を誇る「やんごとなき」趣味であるということも,広く国民に認知されるべきであろう.

日本の貝屋の好戦的な気質というのは,この神武以来の「貝のように撃ちてし止まむ」という精神性を遺伝的に継承しているものなのかもしれない.そう考えると,貝屋であった昭和天皇が,はからずも大戦に巻き込まれたのは,神武以来の貝にまつろう戦闘的な呪いに原因があったとも考えられる.

恐らく当時,東国に強大な勢力を持っていた長脛彦との戦いにおいて,地を這い回るような辛苦のゲリラ戦をシタダミの動きに喩えたのだろうが,これは磯の貝をつぶさに観察しなければ出来ないことであり,古代の「貝のミラクル」と呼ぶべきものである.

では,神武天皇が伊勢の海で見たシタダミとは何であったかという問題になるが,この貝には(1)大石(生石)に付着し,(2)よく這い回り,(3)伊勢沿岸に生息する,という特徴がある.ここまで特徴が明瞭に示されていれば,現代の貝屋であれば誰でも貝の名前を容易に推察できる.伊勢沿岸に生息し,大石に付着していて最も目に付き易い貝と言えばもちろんタマキビやアラレタマキビであるが,これらの種は活発に這い回るのは稀である.次に,コシダカガンガラ・クボガイなどが思い浮かぶ.これらの種は比較的活発に這い回るが,主に石の裏側に生息する種なので,貝屋であるとは言え当時の天皇がわざわざ石をはぐって見たとは考えにくいし,石をはぐらなければ見れないような種を万人に訴えるための歌に詠むとは考えにくい.こうしたことから,伊勢沿岸の磯に普通にいて大石に付着し表在性でよく這い回る貝と言えば,これはもうMonodontaの諸種,イシダタミ・クロヅケガイ・クビレクロヅケガイなどが,神武天皇の謂うシタダミの正体に間違いない考えられる.さらに,よく這い回るということに注目するならば,クロヅケガイ・クビレクロヅケガイのどちらかに絞られるであろう.この2種を比較すると,クロヅケガイはよりクロガネ色で好戦的なイメージが強く,低平でゲリラ戦向きであるであることが明らかであるので,神武天皇が伊勢の海で歌に詠んだシタダミの正体はクロヅケガイに間違いないと断定される.

従って,クロヅケガイは日本の歴史・伝統の象徴的な種,天皇制ゆかりの貝として,厳粛に保護されるべきであろう.


投稿者: 由

1 件のコメント:

  1. 前ブログでのコメント
    投稿者:山下由2006/8/29 12:12
    ナイスなつっこみです

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