これも行橋で食べた,ツキヒガイのバター焼き.ツキヒガイというのは,右殻が白,左殻が赤という,すごいデザインの貝で,よ~く考えると本当にとんでもない貝だと思う.しかし,どうもその凄さはちゃんと受け止められていないようで,世の中そんなこともあるよね的に見過ごされている.「ツキヒガイとか普通に呼びやがって,もっと驚けっちゅ~の」と,或る日,友人は言ったものである.
しかし,こうやって書いていても,ツキヒガイへの執着や愛情は増さない.殻が薄くて,端っこが壊れやすいのが,貝屋的には確かに良くないと思うが,一般的にはもっと驚かれてもいいのではないだろうか.このツキヒガイのデザインの凄さに対する評価の低さはなんなのか.
これは所謂「シマウマの法則」で説明される.シマウマは白黒の縞模様を持つ凄いデザインの馬であるが,「しまうま」と呼ばれた瞬間に「なんだ,シマウマか,じゃあしょうがないね」と飽きられ,その感動的なデザイン,存在の不思議さが,その名前によって人間の思考の中に整然と整理されてしまうのである.このように,名称の過剰に的確な表現が,実体そのものの神秘性を希薄にする現象は「シマウマの法則」と呼ばれている.
月日貝という,暴力的に的確なその名前は,実物の大自然の神秘を,日常に埋没させるに充分である.
一時期,パンダの標準和名にシロクロクマを採用しようという運動が学会で盛り上がったことがあったが,それでは誰も見向きもしなくなるという理由と,クロシロクマかも知れないじゃないかという議論に決着が着かずに,うやむやになったことがある.パンダがシロクロクマかクロシロクマと呼ばれていたなら,そんな珍しくもなさそうな動物はレッドリストからもはずされていたことだろう.生物の名前とはかくも重要なものである.
日本のツキヒガイは,世界に分布するツキヒガイ属の中でも,殻が大きく,紅白のコントラストが強烈で,日の丸を貝にしたような日本を代表する貝と評価されても良さそうだが,もちろんそんな評判はなく,海の底で地味に暮らしている.決して自分の存在に奢ることなく,たいしておいしくないバター焼きにされても超然としているあたりが,ツキヒガイのすごいところで,そこにまた日本人らしい謙虚さを見ずにはおれない.
前ブログでのコメント
返信削除投稿者:ヒナノヒオウギ2007/8/11 12:44
子供の頃、デパートで夏に貝殻を売っていました。ねだってねだって
買ってもらえることになり、でも、1個しか買ってもらえないので、
ものすごーく悩んで選んだのが、これ、月日貝でした。
食べられるところがあるんですね~。一度でいいから海で見てみたい
です。
ところで、パンダ、中国では「大熊猫」ですが、パンダって何語なん
でしょうね~。
投稿者:山下由2007/8/11 2:05
モモノハナ様
アサリはごく稀に,左右非対称の模様があるらしいです.
安渓様
金子みすずの詩に出て来るんですね,読んでみます.
投稿者:安渓 遊地2007/8/10 22:59
あのね、数日前に金子みすずさんの記念館をおとずれたら、
この貝が展示してありました。
てっきり2種類の貝かとおもってた。
ブログにのってます。
http://plaza.rakuten.co.jp/yumenokotonoha/diary/200603100000/
http://ankei.jp
投稿者:モモノハナ2007/8/10 21:10
夏休みに入ってから高校野球の中継がはじまるまで、NHKラジオ第一放送では午前中「子ども科学電話相談」という番組が流れていました。これがなかなか面白くて、数日前には、「アサリの殻は、どれもみんな違う模様だけど、一つの貝を見ると二枚とも同じ模様なのはどうしてですか」という質問が寄せられました。
質問をした小学生は素晴らしい感性をしていると思いました。でも回答者の先生は「遺伝子という、命の設計図のようなものでそういう風に決まっている」と答えただけでした。そしてどうしてそういう風に決まっているのかと言う根本的なところに関しては結局何も話しませんでした。進化の過程のフシギであって、本当のところは誰にも分らないんだってこと。
アサリやハマグリは一つの個体を見ると二枚ともよく似た模様だけれど、他の個体と比べるとみんな違う模様。ツキヒガイはどの個体もよく似たデザインだけど、一つの個体を見るとそれぞれの殻がこんなにも違う。どーしてなんだろう、なぜなんだろう、ってば!!